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ときめくゴリラの落書き帳

magoss.exblog.jp

退社後アルコールタイム(TAT)まゴのブログ。雑記や告知、ときめきメモリアル等のSS。Twitter:@magorial


灼熱の太陽とセミの大合唱が心も体も焼き尽くした夏が終わり、
青々としていた木々も色褪せてきていた。
ついこの間まで、生きているのがイヤになるくらい暑かったのに、
昨夜から雨が降り続いているからか、今日は少し肌寒い。
ちょうどいい季節というものはいつの年も短いものだ。

通称:ハルちゃんゾーンに交換日記を置いてから今日で1週間。
まだ返事の書かれたノートはそこには戻ってきていない。
特にルールがあるわけではないけれど、概ね2週間隔でノートは返ってくる。
その間、ハルちゃんゾーンはいつも空っぽで、他方はいつも大混雑。
それでも、もしかしたら彼女がノートを置いていくかもしれないと思うと、
空いたスペースに僕の教科書を置くことはできなかった。
どんだけ楽しみにしてんだよ、と、自分のことながら呆れているのが正直なところ。
でもまぁ、そんな楽しみがあったっていいじゃないか。

野球部に所属している僕だけど、試合では守備要員。
テストの成績は平凡そのものだし、友達も少ない。
言うまでもないことだけど、女の子と付き合ったことなんてもちろんない。
それでも、自分なりに一生懸命に毎日を消化していた僕に、
何の前触れもなく、突然舞い降りたのがハルちゃんのレシピノート。

2年半の高校生活の中で、ハルちゃんとの交換日記が一番のイベントだと言うと、
あまりにも味気ないように感じてしまうけれど、実際のところ、そうなのかもしれない。
それくらい、ハルちゃんとのやりとりで、僕は救われていた。

翌日、ハルちゃんゾーンに一冊のノートが置いてあることに気づいた。
いつもより少し早い返事。だけど見慣れたピンクのノートに間違いはない。

「笹木先輩♪こんにちは、ハルです。」

何度となく見てきた書き始めの一文。
お互いの名前を公開してから、漏れなく同じ文面だ。
1行下に目を移すと、今回はやけに文章が短い。
忙しかったのか、ひょっとして少し飽きられてしまったのか。
なんとなく、嫌な予感が胸に湧き上がるのを感じた。

「今日、店長に怒られてしまいました。
 任せてもらったばかりのケーキのスポンジ、
 一生懸命焼いたのに、上手くいかなくて・・・。」

心なしか筆跡にも力が入っていないように思える。
よっぽど落胆していることが文字からにじみ出ていた。

「ちょっとスランプ気味かもしれないですね。
 でも、こんなことでくじけてたらダメですよね!
 私、頑張ります!!」

最後の一行の文字は、少し崩れていて、
苦悩するハルちゃんの姿が目に浮かんだ。
外見を知っているわけではないから『目に浮かぶ』というのは
適切な表現ではないのかもしれないけど、
これまでのやりとりを通して、僕はまだ見ぬハルちゃんに一つの姿を与えていて、
僕はそのハルちゃんを頭の中で見ているような感覚を持っていた。

あれ・・・?

いつも最後に付けられる「ハル」の2文字が見当たらなかった。
これまでも失敗した話は何度かあったと記憶しているけど、
自分の名前を書き忘れたり、文字が崩れたりすることはなかったから、
僕はなんとか励ましたいと思って、慌てて六角の鉛筆を手にとった。

「ハルちゃん、お疲れさま!
 スランプで辛いかもしれないけど、ハルちゃんなら大丈夫!
 ここが踏ん張りどころだよ!」

と、ここまで書いたところで手が止まった。
自分のことを棚に上げて、よくもこんな偉そうなことを書けたもんだ。
僕には自分の夢に向かって頑張って、辛い思いをして、壁にぶつかって・・・。
そんな経験が高校入学以来、一度もなかった。
勉強も部活も趣味も人間関係も、全てが惰性。
これまで自分が何をやってきたかなんて質問された日には、
丸一日考えても答えが出せる自信がないくらいだった。

でも、だからと言ってこの文章を書き直したところで、
僕からハルちゃんにどんな言葉をかければいいのかわからなかった。
励ましたいという思いと、これまでずっと心のどこかでくすぶっていた、
ハルちゃんへの劣等感が同時に溢れ出て、鉛筆を握った僕の右手を縛り付けている。

僕も、何かに一生懸命になって、小さなことでもいいから何かを残したい。
でも、この僕に何ができるんだろう・・・。
目の前の一人の女の子にすら気の利いた言葉をかけられない僕が、
何を残せるというのだろう・・・。

僕は逃げるようにノートを閉じ、ハルちゃんゾーンに放置し、席を立った。
昨日から降り続いている雨が悲しく地面を叩いている。


「先輩・・・」

ハルちゃんからの返事は2日後に返ってきた。
もちろん、これまでで一番短い間隔での返事だ。
そして、書き始めの一文は、見たこともないような力のない文字で記されていた。
恐る恐る目線を下に移動させて、続きの文字をなぞる。

「もう、失敗が続いてしまって、完全に自信を失ってしまいました・・・。
 やっぱり、私は一人前のパティシエールになることなんてできないんでしょうか。
 今日も失敗するんじゃないか、怒られてしまうんじゃないか、って考えてしまって、
 お仕事に行かなきゃいけないのに、家を出ようとすると、怖くなって、足がすくんで、
 涙が止まらなくなるんです・・・。」

ノートを持つ両手が震えていることに気付きながら、
ただただ平静を保とうと、ブンブンと頭を振って読み進める。

「それでも、先輩の言葉を思い出して、
 今日もなんとか遅刻せずにお店に行くことはできたんですけど、
 やっぱり上手くいかなくて・・・。
 私、もうどうすればいい・・・かわか・・・なく・・・・・・。」

ところどころの文字が滲んで読めなくなっていた。
きっと涙が零れてしまったせいなのだろうけど、
まだ続きがあるので、とにかく無心で最後まで読むことにする。

「先輩・・・。こんな時、先輩ならどうやって乗り越えてますか?
 いつものように、私に元気をください。
 このままじゃ、私らしくいられなくなってしまいそうで、怖いんです。
 お返事、待ってます!!    ハル」

初めてだった。
これほどまで明確に僕を頼る文面。
僕に何かを求める文面。
一体、何が僕をここまでハルちゃんに頼られる存在にしているんだろう。

僕には何もない。
ハルちゃんに与えられるものなんて、何一つない。

これまでだって、ハルちゃんは自分で乗り越えてきたんだ。
僕のおかげだって、いつも書いてくれているけど、実際は違う。
僕は無力で、平凡で、志すものも、夢もない。
そんな僕が、毎日自分の夢に向かって努力を続けている年下の女の子に
何が言えるというのだろうか。

「頑張って!」
「きっと大丈夫!」
「なんとかなるよ!」
「応援してるよ!」

そんな当たり前で空虚な言葉が、彼女に何を与えることができるのだろうか。
何も与えることなんてできない。何の意味もなさない。何も彼女のためにならない。

「ハルちゃん」

僕は少しの間、目を閉じた後、
感情を押し殺しながら鉛筆を走らせる。
無力な自分を戒めるように、安易で空虚な言葉を飲み込んで、
自分の想いを活字に変換していく。

「僕には、ハルちゃんを勇気づけることができないんだ。
 ハルちゃんは、いつも輝いていて、前向きで、ひたむきで、
 僕みたいな平凡で無気力な人間が、無責任な言葉で
 ハルちゃんに何かを伝えるなんてこと、できないんだ。
 何もしてあげられなくて、本当にごめん。」

僕は何を書いているんだろう。
何の目的で誰のためにこんなことを書いているんだろう。
でも、これが今の素直な僕の想い。
これ以上でも、これ以下でもなかった。
苦し紛れに最後の一行を付け足して、僕はノートを閉じた。

「でも、頑張って!」

僕は、涙で前が見えなくなっていた。
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# by mago_ss | 2010-10-12 00:28 | ときめきメモリアル4
「笹木先輩♪こんにちは、ハルです。」

彼女の文章は、決まってこう始まる。

水月春奈ちゃん。きらめき高校の2年生で、夜間部に通っている。
彼女とこうして交換日記を始めることになったのは、今年の春。
ハルちゃんが、よっぽど疲れていたのか、うっかり僕の机の中に、
(『僕の机』といっても、それはもちろん彼女の机でもあるわけだけど)
びっしりとレシピが書かれたノートを忘れて帰ってしまって、
翌日,夜間部があることなんて知らずに大半の教科書を置き勉している
自他共に認める平凡な高校3年生の僕が偶然そのノートを発見したんだ。

教師に届けることも、同級生に報告することもせず、
ただ、なんとなく、まだ見ぬ女の子を思い浮かべながら、
(名前が書いてあるワケではなかったから、
ともすれば、男子生徒の可能性もあったのかと考えると、
我ながら思い切ったことをしたもんだと笑えてくる。あはは)
メッセージを添えてノートを机の中に戻したことがきっかけで、
それ以来、ゆっくりとしたペースで半年間、交換日記を続けてきた。

「今日、すっごく嬉しいことがあったんです♪もうこれは事件ですよっ!」

いつも、ハルちゃんの交換日記は元気いっぱいで、
先輩のくせに僕は、いつもハルちゃんに励まされてばかりだ。
ハルちゃんはどんな時も一生懸命で、輝いている。
顔も知らなければ、声すら聞いたこともない。
だけど、そのイキイキとした姿が、やけにリアルなものとして目に浮かぶ。

「店長が、ケーキのスポンジを焼かせてくれたんです♪
それも、練習じゃないんです。お店で出すケーキのスポンジですよ!
もうほんっとに嬉しくて、集中しなきゃいけないのに、
ついつい、口元が緩んでしまいました☆」

ハルちゃんの女の子らしい文字をなぞりながら、
今度は僕からどんなことを書こうか考えるのが、
ちゃんと予習をしてきた自分に許された、休み時間の有意義な過ごし方。

「これも、先輩がいつも元気をくださってるからですっ!
本当に感謝してるんですよ!ありがとうございます☆
一日も早く、一人前のパティシエールになれるように、
これからも頑張りますね♪」

僕は何もしてないのに、元気をもらってるのは僕の方なのに、
それでも思わずニヤニヤしてしまうのはどうしてだろう。
理由はわからないけれど、やっぱり嬉しいよな、うん。

「ハル」と、最後に書かれた二文字を認めると、今度は僕の番。
中学生の時から使ってるカンペンケースを手馴れた動作で開けて、
テストで困った時に重宝している、六角のサイコロ鉛筆を手にとった。

「ハルちゃん、お返事ありがとう♪」

はて、何に対しての返事だったかな。
ページを1枚戻って、ハルちゃんとは明らかに違う筆跡で綴られた
これまた何の変哲もない平凡な文章を読み返してみる。
内容なんて、本当にないな。
キャンバスに残った白紙の部分に違和感を覚えて、
なんとなく鉛筆で塗りつぶしたような、そんな文章。

「おめでとう!ハルちゃんの夢がまた少し現実に近づいて、
僕も自分のことのように嬉しいよ。本当におめでとう!」

当たり障りのない文章でハルちゃんへの返事を書き始める。

「僕もハルちゃんの焼いたケーキ、食べてみたいな。
機会があったら、是非食べさせてね!
お仕事と学校の両立は大変だろうけど、ハルちゃんなら大丈夫!
これからも応援してるから、頑張ってね♪」

ふぅ、と溜め息をひとつして、ノートを閉じる。
文章を読み返すと、書き直したくなってしまうから、
返事を書いた後はこうして、すぐに机にしまうようにしている。

ハルちゃんから嬉しい報告を聞くのはこれが初めてではない。
ある時は、下ごしらえを任せてもらえたこと。
またある時は、果物のカットをお願いされたこと。
チョコ製のプレートにメッセージを書かせてもらったこともあったかな。
ただ、自分のことのように嬉しく思っていることは確かなのに、
心のどこかで、ハルちゃんに劣等感にも似た感情を覚えていることも事実だった。

もう一度、小さく息を吐き出して、
大きな笑い声が響くグランドの向こうをぼぉっと眺めてみた。
確実に季節は移ろいでいくけど、僕は何も変わっていないんだ。

次の授業は数学。
微分・積分なんて、いったい何の役に立つんだろう・・・。

ハルちゃんと交換日記を始めてから、
暗黙のルールによって決められた、机の下の左側。
通称:笹木ゾーンに押し込められた教科書とノートの中から、
数学の教科書を探して引っこ抜く。

二人の交換日記は、綺麗に整頓されたハルちゃんゾーンに置くことになっている。
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# by mago_ss | 2010-10-08 01:32 | ときめきメモリアル4
みなさん、メモりあってますか??

勢いに身を任せて、突拍子もなくブログなど開設してみました。
ニコニコ動画とか、ついったーとかによく出没するらしい15年目のときメモラー、
まさゴリラと申します。(まゴって呼んでね♡)

どうしようもないくらい文才がないことは自覚しているけれども、
ついったーで出会った素晴らしい仲間に触発されて、
こうして、脳内にうごめく妄想を具現化する運びになりました。
おいらにチャンスを与えてくれた諸先輩方にこの場を借りて感謝の意を(ゝω・)☆

さて、あとがきということで。

記念すべき人生初SSの主役を飾ったのは
My Sweet ヤンキーお嬢様の龍光寺カイちゃん♡
もうホントかわいいよねカイちゃんぺろぺろ(^q^)

設定を大きく踏み外してみたのだけれども、いかがだったでしょうか。
「どうみても坂上智代です、本当にありがとうございました」ってことに
書きながら気付いてたのは内緒だよ♪www

智代が弟の自殺未遂で我を取り戻したのに対して、
カイの目を覚まさせたのは、ずっと自分を想っていてくれた幼馴染み。
この幼馴染みの名前を考えるのがなかなか大変でね・・・w
ついったーで募集した結果、「つかさ」という名前になり、
なんとなく思いついた名字をくっつけて、いっちょあがり・・・と。

最初は「古我良平」にしようかな、とか
「早乙女好雄」にしようかな、とか、
ときメモ1に登場する女性キャラの名字にして、
子供って設定にしようかな、とか(だいぶ無理があるなw)
色々と考えてはみたのだけれども、
ワリとシリアスな展開のお話だったから、自重しました( ´ω`)

それにしても、感情の描写が全然うまくできません。
カイを諭す時の幼馴染みの心情だとか、孤独なカイの葛藤だとか、
妄想時点ではバッチリなのに、表現できない自分が歯痒いことこの上なし。
徐々に上手くなれたらいいな。

個人的にこのお話のラストの展開が好きで、(ベタなんだけどね)
カイを苦しめてた色んな呪縛が一気にほどけていって、
たぶん相当鼻も痛いんだろうけど(粉砕されてるからねw)
それでも自然と笑顔になれた、カイちゃん。

しかし、リアルだとしたら凄い絵なんだろうね。
鼻の骨折れて、鼻血と涙でぐちゃぐちゃになt(ry
いや、それでもカイちゃんマジ天使だからね!これ正論!!

てなわけで、次は「ハルちゃん」をテーマに書きますよ。
ハルちゃんといえば、もちろん「交換日記」なわけで。
一冊のノートを巡ってどんな話が生まれるのか、自分でも楽しみなのだ☆

それでは、今日はこのあたりで。
今後とも、どうぞヨロシクお願いいたします♪

あなたのハートに、ときめきLOVE♡
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# by mago_ss | 2010-10-07 00:19 | あとがき


いつしか、カイの名前は隣町すらも越え、
そのまた隣町でも知られるようになっていた。

『女神』と呼ばれるカイの姿を見ようと、
不良たちはおろか、野次馬さえもが、
はるばるきらめき市までやってきては、
カイを挑発するようになっていった。

そんなある日のこと、
セミの声がやっと聞こえ始めた7月の初旬に、
カイは今年初めてのプールへと向かっていた。
おろしたての黒の水着を可愛らしいカバンに入れて、
ワクワクする気持ちを必死に抑えようと深く息を吸って、
グッとペダルに力を込めた河川敷公園沿いの道。

直後、少し慌ててブレーキを握った。
「・・・またかよ。」
高ぶっていた気持ちが一気に引いていくのがわかる。
目の前には、数カ月前に同じ場所で喧嘩を売ってきた男が一人。
もう夏なのに、真っ黒の変形服に身を包み、その中からは真っ赤なTシャツが覗く。

「おい、そこをどいてくれないか?通れないだろ・・・。」
カイは努めて冷静に、男に声を放った。
「おやおや、愛しの女神様。可愛らしいカバンなんて持って、お出かけカイ?」
「なんだっていいだろ!いいから、どいてくれよ!」
「そのカバン、女神だなんて呼ばれるようになったもんだから、
 調子に乗って買っちゃったのカイ?似合わないのにねぇ・・・ククク」
「ぁんだよ・・・!!」
気が付くと、カイは自転車を降りて、男を睨みつけていた。

「そうこなくっちゃ・・・」
男はニヤリと笑ったかと思うと、次の瞬間、
隠し持っていた金属バットをカイに振り下ろした。

・・・・・・ギンッッッ!!!!

鈍い、硬質な音が河川敷公園に響き渡った。
セミたちも何事かと驚いたのか、静まり返っている。
対岸の堤防では、少し遅れて小さく金属音がこだました。

「・・・なにしやがるんだ・・・てめぇぇえ!!!!」

カイは寸でのところでかわした銀色のバットの先端付近を足で踏みつけ
男の腕から引き剥がすと、そのまま右手を男の顔面目がけて振り抜いた。

・・・・・・グギャッッッッ!!!!

と、数秒前に響いた音より硬くはないが、
なにかが潰れるような、へし折れるような、そんな嫌な音がした。
なぜか、今度はセミがミンミンとやかましく鳴き喚いていた。


翌日、カイはきらめき高校から1週間の謹慎処分を受けた。
罪状は、隣町の男の右腕前腕複雑骨折。
今まで臭いものには蓋を、触らぬ神に祟りなし、とカイを敬遠していた教師たちだったが、
今回ばかりはさすがに見逃すことはできなかったようだ。

「相手は金属バットだったんだぞ!!殺されるかもしれなかったのに、なんで・・・!?」
教師に反発したり、声を荒らげたりすることは過去に数えるほどしかなかったカイだが、
職員室に響き渡るほどの大きな声で抗議した。しかし、前科が前科だけに、
聞き入れようとする教師は一人もいなかった。

「どうしてこんなことになってしまってるんだ・・・くそっ・・・」
悔しい思いが少しずつ、やり場のない憎しみに変わっていく。
無意識のうちに握りしめていた拳には、血が滲んでいた。

謹慎期間が始まったその日、カイはまた河川敷公園にいた。
家で大人しくしているなんて退屈だから散歩をしにきた、なんてかわいい理由ではない。
カイは、目が合うガラの悪そうな連中にイチャモンをつけては、殴りかかり、
与えられた通り名にふさわしく、暴力に魅せられたかのように、次々と、男連中に土を舐めさせた。
正午過ぎから日が暮れるまで、カイは河川敷公園にある古ぼけたベンチに腰かけて
憎しみに押し潰されそうな拳を、その拳を向ける先を探し続けた。

謹慎期間の最終日。
カイは一週間、毎日のように河川敷公園にやってきては暴力を振るい、
いつも陣取るベンチの周りには、薄く血痕が残るまでになってしまっていた。
もはや、なんのために人を殴っているのかも、自分が何をしたいのかもわからない。
ただただ、解消されることのない憎しみを、どうにかして発散したくて、
カイは少しクマのできた目を剥いて、また拳を握るのだった。




「何をやってるんだよ、お前は・・・」

ベンチに腰かけて遠くを眺めていると、死角から聞こえる、恐らく同年代の男の声。
今まで地面に沈めてきた男たちのそれとはかなり違う、優しさを含んだ口調だ。
慌てて振り返ると、声の主は、黒の学ランに身を包んだ高校生だった。
きらめき高校はカイが入学する年に制服のデザインが変わり、男子もブレザーになったので、
違う高校か、あるいはきらめき高校の3年生か。
いずれにせよ、前髪で目元が隠れていて、見たことがある顔かどうかもわからない。

「ぁんだよ!お前!!!」

相手が誰であろうと、今のカイには関係なかった。
(きっと、こいつも敵なんだ!!倒さなきゃいけないんだ・・・!!!)
カイは素早く立ち上がり、拳を握った。
一歩駆け寄り、この一週間で両手でも数えきれない人数を潰してきた拳を突き出す。
一発・・・そして二発・・・。
いつもなら二回の打撃音と、続いて地面から重たい砂の音が聞こえるはずなのだが、
カイの耳に届いたのは、乾いた2度の風切り音とセミの合唱の声。

(当たらない・・・!?)

もう一度、相手の顔を睨みつけ、素早く今度は3度、拳を突き出した。
聞こえてくるのは、数秒前と同じ音。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
カイは無我夢中で何度も、何度も拳を突き出すが、
学ラン姿の男は穏やかで、どこか寂しそうな面影を保ったまま、それを全てかわしていた。

(どうして、当たらないんだ・・・!!!)

再び、男の顔に目の焦点を向けたその刹那、

・・・・・・・・・・・・・ッ!!

目の前が真っ白になる。
ほぼ同時に覚える自分の顔への鈍痛。
今まで感じたことのない痛みがカイを襲った。
痛みに顔を少し歪め、反撃に出ようとしたが、
口の周りに生暖かい液体が伝い始め、ふと我に返る。
慌てて口と鼻に手をやるが、鼻の感覚がない。
恐らく、さっきの一撃は鼻を直撃して、
スッと通ったカイの鼻の骨を粉砕していたのだ。
(誰なんだ・・・こいつ・・・)
さっきよりも冷静に、男の顔を覗き込んだ。

「久しぶりだな・・・カイ・・・。」

藤枝司。
学ラン姿の男の正体は、カイの幼馴染みだった。
小さい頃、いつも同い年のカイにいじめられて叩かれて泣いていた、
カイにしてみれば、弟のような存在だった男に今、圧倒されている。
こちらの攻撃はかすりもせず、もらったことのない一撃を受け、
河川敷公園の砂利道には自分の血が滲んでいる。

「・・・・・・・・・・・つかs・・・ッ!?」

名前を呼ぼうとしたその時、再び、今度は頬に走る痛み。
さっきのとは違う、鋭い、だけどどこか優しい痛み。
小さい頃、あんなに小さくて幼かった手のひらが、
確かにカイを弾き、カイの頬に確かな痛みを残している。

(でも・・・どうしてつかさが・・・)

状況が理解できず、戸惑うカイに向かって幾分歩み寄り、
穏やかな表情のまま、それでもさっきより鋭い目付きになった幼馴染みが言う。

「好きだったんだよ・・・カイのことがずっと・・・。
 小学校高学年の時にカイがこの街に引っ越してから、もうずいぶんになるけど、
 忘れられなかったんだ・・・。」

彼は、幼心ながら、自分よりずっと強くてたくましかったカイに憧れ、
そして、離れ離れになる頃には、カイを守れる男になると心の中で誓ったのだった。
小学生にして隣町の道場にまで足を運び、稽古を重ね、中学では全国大会に出場するようにもなった。
高校に進学し、空手部で活躍し、インターハイにも入賞するようになり、
今ならカイにも認めてもらえるかもしれない。そう思っていた矢先に聞こえだしたカイの噂。

『暴力に魅せられた女神』

ずっと憧れてきた、いや、ずっと想い続けてきたカイはもう別人になってしまったのか、
それを確かめたくて、遠く離れたきらめき市までやってきた。

「カイを守るために頑張ってきたはずなのにな・・・。
 この拳を、まさかカイに向けることになるなんて、思わなかったよ。」

カイは、うつむいたまま、しかし一つ一つ、彼の声を噛み締めるように聞いていた。
口の周りを伝うものは乾き始めていたのに、今は頬を濡らすものが不快だ。
小さかった頃のこと、頼りない幼馴染みと毎日のように一緒に遊んで笑い合っていたこと。
学校のテストの結果を二人で見比べて大笑いしたこと。
両親には内緒で二人で花火をしたこと。
縁日の金魚すくいで司がくれた金魚を大事に育てていたこと。

(そういえば、朝起きたら金魚が死んでてボロ泣きしたんだっけ・・・)

「ふふふ、あはははは・・・・」

零れ始めた涙は止まりそうもなかったけれど、なぜだか、自然と笑顔になっていた。
まだ笑える自分がいることに気付けたことも、
こんな自分を想ってくれてる人がいるってことに気付けたことも、心から嬉しかった。


「ほら、病院行くぞ」

幼かった頃の面影を重ねながら、
カイは差し出された大きくて男らしい手を握った。
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# by mago_ss | 2010-10-05 00:44 | ときめきメモリアル4
龍光寺カイ。

県内でも平穏さでは上位だと言われるきらめき市において
彼女の名はあまりにも有名だった。
有名、といっても、それはどちらかといえば、悪名高い方の意味ではあるのだが・・・。

「あ゛ぁん?もっぺん言ってみろお前!!」
きらめき市民の散歩道として愛される河川敷公園に、
龍光寺カイの鋭い声が響き渡る。
向けられた『眼力』の相手は隣町の不良グループ。男3人だ。

「女だからって手加減すると思うなよ、この野郎!!」
男3人が彼女目がけて乾いた地面を蹴る。
不敵な笑みを浮かべながら龍光寺カイはそれに対峙した。

鈍い打撃音が数回。
少し遅れて聞こえるのは、やはり、低いうめき声だ。
龍光寺カイはいつもそうだ。
いとも簡単に、男たちを熨してしまう。

彼女は私立きらめき高校の2年生。
入学当時から授業の出席率は悪く、1年の1学期にして
他学年を担当している教師ですら、彼女の名前を知らない者はいなかった。
1時間目の授業から彼女の姿を見た日には、
あまりの珍しさに何か企んでいるのではないかと不安がる教師がいたほどだ。
ただ、その一方で、テストでは毎回上位の成績を収めるものだから、
誰も文句は言えないのだった。いや、言わなくて済む・・・と表現すべきか。

それに、教師が彼女に対して文句を言えないことにはもう一つ理由があった。
龍光寺カイは圧倒的な眼力を持ち、外部からの接触を許さないことはもちろんのこと、
それ以上に、この手のキャラとしては月並みかもしれないが、とても美しかったのだ。

彼女に言いがかりをつける不良連中にも、その美貌に目がくらむ者もいるようで、
自分の存在を龍光寺カイに気付かせたいという理由で喧嘩を挑む者も少なくないらしい。
だが、彼女にとってはそんな浮いた話はどこ吹く風。鋭い目付きのまま、殴り、蹴り倒す。
いつからか、彼女には不名誉な通り名がつけられていた。

『暴力に魅せられた女神』

女神のような美しい風貌のまま、喧嘩に明け暮れる日々なのだ。
どこまでも美しく、そして、強かった。



そんな彼女に、初めて膝をつかせる相手が現れるなんてことを、
この時はまだ彼女自身も想像できてはいなかった。



〜後編へ〜
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# by mago_ss | 2010-10-03 01:47 | ときめきメモリアル4